『古事記』を読む

文學と逃げず左右思想を持ち込まずスピに走らず学問的蓄積を飛び越えず内在する論理を信じ通説の否定をためらわず

古事記ブックガイド3 神野志隆光『古事記とはなにか』

 

 

 『古事記』の原文は独特の表記で読みにくい。現代語訳は訳者の考えが表れていて鵜呑みにできない。入門書は多く出ているが偏った内容のものも少なくない。このような中で、安心して手にすることができる古事記入門書は貴重です。

 本書は、『古事記』をひとつの作品として読むという姿勢で貫かれています。「記紀神話」と言われるように『古事記』は『日本書紀』と相互参照的に読まれてきた悪しき伝統があります。よく読めば、『古事記』と『日本書紀』の記述内容は根本から異なっている部分も多いのですが(例えば「高天原」は『日本書紀』には存在しないし、『古事記』の天地は開闢(かいびゃく)しません)、世の『古事記』入門書や現代語訳の多くは、『日本書紀』に影響されすぎていて、かえって『古事記』を誤解させてしまうものの方が多いのです。

 それに対し、本書は、あくまでも『古事記』にこだわって書かれています。作者の主張も論拠を示して論理的になされているので、読む側も作者に丸め込まれてしまう心配はありません。異なる意見に対して開かれているのです。たとえ批判的に読み進めても得ることが多い本書は、凡百の左右イデオロギッシュな類書とは格が違うのです。

 

オススメ度★★★★★(5つが最高)